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◇コンタクト 第8話

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-03-12 11:23:36

8

私が椅子に座ると続けてすぐに長身の男性が斜め前の椅子に腰かけた。

そしてサインが送られてきた。

男性は後ろを……私の方を向かなかった。

すぐに彼の声が脳内に入ってきた。

『どうですか? 僕のメッセージ受け取れていますか?』

『私の斜め前に座った人ですか?』

『そうです』

私が無音で話した言葉がちゃんと相手に届いているみたいでほっとする。

背中だけじゃぁ、これから始める会話に心もとなくて私はある要求をした。

『少し顔が見たいです』

すると彼が私のほうへ身体を少し斜めにずらして顔を見せてくれた。

『ありがとうございます。どうぞ前を向いてもらって大丈夫です。

正直かなり混乱しています……。

どうして、地球人とコンタクト取ったりするのですか? あなたの星の人

たちはみんな、地球人にコンタクトを取ったりするのですか?』

『いいえ、僕のような者は滅多にいないと思います。僕が特別なのです』

『特殊な能力とか?』

『そういうことでもなく、今は詳しく説明できませんが……。ルール的に

地球人への干渉してはならないのですが、僕は運よく今回あなたに接触で

きることになりました。だからと言って、いつでも地球人にコンタクトを

取れるというわけではありません。他の金星人もしかりです』

『私の悲しみが……私が悲しんでいるのが分かるなんてすごいですね。

すごいと思う反面、怖く感じてしまいます』

『怖がらないで。ただあなたを元気づけたいだけなのです』

『悲しみや苦しみを抱えている人間は、私の他にも大勢いるはずですが、

どうして私を選んでコンタクトとってくれたのですか?』

『ほんとに、それ。そう思いますよね。

それは、たまたま? としか言いようがないのです。

あなたが嘆いている時、私がたまたま通りかかり、すっと僕の頭の中に

あなたの何とも言えない悲しみが入ってきたのです。

僕の経験したことのない感情でした。

それでものすごく気になってしまいました。

それと共にあなたを慰めて絶対元気にしてあげたいと思うように

なったのです』

 綺羅々の説明には若干の嘘が含まれていたが、今の彼はそう言うしか

なかった。

『やさしい人なんですね。ありがとうございます』

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    6 人の気持ちは変えられないのだと改めて理解した。 夫から離婚したいと言われたら受け入れようと思う。 これ以上縋ったり、取り乱したりすることなく、話し合いができるよう 心の準備をしておかなくちゃ。それにしても、あんなに仲の良かった夫婦が2か月で……というより、 ある日を境に夫の心変わりで私たち夫婦の関係性が劇的に変わろうとは、 まるで悪い夢でも見ているような気分だ。*また月が替わり7月に入った金曜日のこと。 知紘から、晩御飯はいらないからと電話連絡が入る。会社が終わるとまた、真知子に会いに行くのだろう。 すごいね、会社での仕事を終えてからの週末、女に会うというのは 初めてのことだ。……ということは、今後度々同じことがあるのだろうと思える。          ◇ ◇ ◇ ◇ その日、私は気晴らしに近隣の森林植物園へ草花を見に行くことにした。 自然に触れて心癒されたいと思ったからだ。この季節、植物園ではアジサイが見事に咲き誇っていた。幻の花と言われている六甲の名花シチダンカなどのヤマアジサイや 六甲ブルーに輝くヒメアジサイなどが、深い色目の緑に交じり、 鮮やかに咲いていた。 私はしばらくその場所から動けなかった。 日常いかに、草花とかけ離れた生活をしてきたのかが実感された。 植物はただそこに咲いているだけ。 できることは、水分を吸い上げ誰かに愛でてもらうことだけ。自らは動けないから。 でもすごいよね、誰かに……何者かに……何かをしてあげられることは できないけれど、ただそこにあるということだけで、誰かを……何者かを……彼らの心を癒すことができるのだ。すごいぞっ、アジサイ。しばらく、アジサイの花々を堪能したあと私は、植物園内の散策コースにある道をそのままゆっくりと進んだ。 すると間もなく目の前にパステルカラーに彩られたトンネルが見えてきた。 みずみずしい色合いでグラデーションが変化していくトンネルの中、涼しげな青がきれいで、歩いているとひんやりとして感じられた。           ◇ ◇ ◇ ◇ 生まれてはじめてのトンネル体験に感心しながら歩いていると、 どこからともなく頭の中に声が、言葉が響いてきた。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇美鈴と知紘の出会い 第5話

    5      *美鈴と知紘の出会い、それは約8年前に遡る**美鈴の学生生活最後の年のこと。 大学から最寄り駅までの道を変えたところ、毎朝ではないものの ほとんど朝、知紘とすれ違うようになり社会人で男振りの良い 知紘は大人の素敵な男性に見えた。 それはちょうど美鈴が同級生の宗方守《むなかたまもる》と入学直後から 3年間も付き合いながら振られた直後のことだった。実際に振ったのは美鈴のほうだったのだが二股に気付いて振ったの だから、実質美鈴が振られたようなものだ。美鈴が相手を追い込まなければ、相手の男はふたりの女子の間を泳 いで上手くやろうとしていたので交際はグダグダながら続いていた のかもしれない。けれど、性格的に1人の人間を友達ならばいざ知らず、恋人を2人 で分かち合うなんていう気持ちの悪いことはできなかった。未だ、相手の男子学生からたまにメールなどが届く。美鈴はメール は勿論のこと、校内で彼に会ってもスルーしている。このような状況もあり、知紘とすれ違う朝の時間は目の保養タイム となっていった。            ********あれからたまたま学食などで出会わしたりすると、話し掛けて来る元彼の守。 これまでは、怒りMAXでひと言聞くだけでそのあとは振り払っていた美鈴。しばらく、会うことなく過ごしていたのだが、ある日のことバッタリ学食で 遭ってしまう。 この日は元彼の二股を知り、別れの言葉を叩きつけた日から20日余りが 経過していたせいか、美鈴のほうにも話を聞くくらいの余裕があった。 醒めた目をして、守の話を聞いていた。「また、連絡するな。じゃあ」ほとんど、相槌も打たずに彼と向き合ってただそこに棒のように突っ立って いただけの美鈴に守は愛想よく社交辞令でか? いつメールを出しても返事 をしない美鈴にそう言って離れて行った。振り返なければ良かった……。なんと、守が歩いて行った先は、グループになっている男子学生数名と女子 学生数名のいるところだった。 その中の1人の女子が自分と二股して付き合っている女だったのだ。どこまでも舐めたことをして平気な守に美鈴は反吐が出そうになる。 いつまで、くだらない浮ついた男に心乱されなければならないのか。 あんな男の話をにこにこしながら聞いたわけではないといいつ

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇ドロボー 第4話

    4「休日なのに、また今日も出かけるの?」私と一緒にいるよりも楽しい場所と楽しい人がいるんだね、たぶん。 「うん、前からの約束だからさ。行ってくる。 あぁ、晩御飯いらないから……。それじゃ」 「待ち合わせの人ってアノ真知子ちゃんなんだね」「へっ? ま、ま、マチコぉ~?」『とぼけなくていいわよ。 真知子ちゃんとデートするって、あなたが言ってたんだよ?』酔っぱらってた日にね。知紘は首を傾げながら知らないふうで玄関を出て行った。 今にも私は田中真知子ちゃんに夫を取られそうだ。 夫の様子から、このままだと取られそうなどと甘いこと 言ってられないと思った。 この勢いで夫を……知紘を寝とられるかもしれない、そう思えたから。その月の残りの土日併せた休日の4日間、夫が家で寛いだ日は 1日もなかった。 月が替わった頃、ふと思い立ち野球部が公開している インスタグラムを見てみた。 知紘がある女性の肩を抱き寄せて映っている画像を目にする。 美鈴は、この人物がたぶん田中真知子なのだと直感した。 そこでハタと閃き、今度は『田中真知子』インスタグラムと検索してみると、彼女はインスタを公開していた。驚くべきことに彼女個人のインスタにちゃっかりと知紘は恋人でもあるかのよう にパソコンの画面の中に……インスタの画像2枚に、楽し気な様子で映り込んで いた。そこは、あきらかに部屋の中だった。 部屋の中で撮影したものだ。しかも周囲に野球の関係者は見当たらない。 私は思わず叫んでいた。『真知子、それは私の夫よ。返して~』 ねねね、ちょっと、酷くない?  奥さんのいる旦那を取るなんて……人のモノを盗るなんてドロボーじゃない? そう、ドロボーよぉ。 『真知子の泥棒~』部屋の中で私の声が空しく響く。          ◇ ◇ ◇ ◇翌月の休日も夫は家に留まることなく、ウキウキと出かけて行った。堪り兼ねて、2週目の休日に引き留めてみた。◇寂しい「チーちゃん、たまには一緒に過ごそうよ。寂しいよ」 「ごめん。だけど今は野球部のメンバーと親交深めときたいんだよね。 やっぱり試合の時にものすごく効いてくるからさ。 寂しい思いさせてごめんね。 アレだよ、実家に帰ってゆっくりしてくるといいよ。 俺、飯は外で食うかコンビニで間に合わせるから、気に

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇浮気 第3話

    3「いきなり、なに?」「うん、私ももうすぐ30の大台だし」「美鈴は見た目25才くらいでまだまだいけんじゃん。 そーだな、おばさんねー……流石に40才越えたら おばさんのカテゴリかなぁ。 でも昔と違って今の女性は見た目が若いからねぇ~」 「そうなんだ、40代からおばさんってカテゴリに入るのね。 そっか、そっか」 「どうしちゃったの、突然『おばさん』の話って、ははっ。 今日の美鈴、変だ」 「チーちゃん、昨日家に帰ってきた時のこと覚えてないの?」「うん、そうだね。家に入ったのは覚えてるかなー」「私のこと、『おばさん』って連呼してたこと覚えてないんだ」「ブッ。そんな失礼なこと言ってないでしょ、言ってない」「覚えてないのに、どうして言ってないって断言できるの」「もし、言ってたとしても美鈴のことじゃないと思う。 誰かほかの女性のことだよ、きっと。だって俺、美鈴のこと『おばさん』だなんて思ったことないもん」 「ふーん。まっいいや。そういうことにしておきましょ」この問答があってか、チ―ちゃんはそそくさと家を出ていった。          ◇ ◇ ◇ ◇その週の週末は雨だった。 それなのに……朝から早起きしてる知紘が出かける準備を始めた。「チーちゃん、今日は雨だよ。どうして出かける準備してるの?」 「あっ、チームのみんなでカラオケ行くことになってるんだ」「チーちゃん、野球ないんだからさぁ、一緒に映画見ようよ。 Wowowの映画録画してるのもあるし、オンデマンドでも観れるし、 いいの探して一緒に観ようよ。前は一緒によく観たじゃない」「それ、今度な。ひとまず今日はもう約束してるから。じゃ、いってくるわ」「チーちゃん……」 玄関先で知紘に声掛けする私の目の前で知紘が玄関から外へとスルリと抜け出し、ドアがゆっくりと閉まる空間で私の声が空しく響いた。 『寂しいよ~』以前なら野球のない日にわざわざ出かけて行くことは なかった……と思う。例の真知子ちゃんが理由なのかもしれない。私と知紘は結婚して7年なんだけど、7年で古女房って よく考えてみると酷すぎなぁ~い? なんか、チ―ちゃんのことが分かんなくなってきた。1週間前に酔っぱらって帰って来る前は、なんだかんだ 二人の生活が楽しかった。 たった1週間のことで、こんなにも私

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